ラスト・ジョーカー



 麻由良の周りでたき火を囲む隊商の人々のうち、ある者は露骨に顔を強張らせ、ある者は無表情を保ちながらエルのほうを見ないようにしている。


とくにガランは、今にも噛みついてきそうな険悪な表情でエルを睨みつけている。


そんな中に入っていく勇気は、エルにはない。



「あたし、ここでも寒くないですから。お気遣い、ありがとうございます」



 一礼して、エルは再び荷車の後ろに隠れた。


ゼンもそれについてくる。

それが嬉しくて、エルはすこし笑った。



 しばらくすると、野営地から「ちょっと麻由良さん、やめといたほうがいいですって!」と咎めるような声がして、それから誰かの足音が聞こえた。


足音は近づいてきて、やがて「やあ」という声とともに、木の枝をたくさん抱えた麻由良が荷車の端から顔を出した。



 麻由良は抱えた木の枝を地面におろして手際良く重ねると、ポケットからライターを取り出して火をつけた。



「そこにいて寒くないにしても、このほうが暖かいだろう」



 そう言うと、麻由良はエルの隣に腰を下ろした。



「ま、麻由良さん? あの、そんなに気を遣わなくても」



 エルが慌てたように言うと、「気にするな。私がエルと話したいだけなんだから」と言って、麻由良はニカッと笑ってみせる。



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