ラスト・ジョーカー
「そ、そんなことないです!」
エルが慌てて否定すると、麻由良は小さく笑って、「ありがとう」と言った。
「不老不死を……」
唐突に、それまで黙っていたゼンが言った。
「不老不死を求めたりしなければ、異形なんてものは生まれなかったのに。……こいつも、普通の人間として生きられたのに」
独り言のように呟くゼンの表情からは、なんの感情も読みとれなかった。
エルや異形に対する哀れみも、不老不死を求めた数百年前の研究者への怒りも、なにもない。
ゼンの伏せたまぶたを照らす火が揺らめく。
「そうだな」と、麻由良が言った。
「四百年前、どうして人々は不老不死なんてものを求めてしまったんだろうね。不老でなくても、不死でなくても。
お互いにとってお互いが唯一の、そんな誰かに出会えたら、きっとそれだけで幸せなのに」
「お互いにとって、お互いが唯一……」
麻由良の言葉を、舌の上で飴玉をそっと転がすように、エルは小さく呟いた。
お互いにとって、お互いが唯一。
ひどく暖かい響きの言葉だ、とエルは思った。
(あたしが世界一大切に思っていて、あたしを世界一大切に思ってくれている、そんな存在)