ラスト・ジョーカー
「おねえちゃん、どうしたの? どこかいたいの?」
言われて初めて、エルはその水滴が自分の涙だと知った。
慌ててミオの顔を拭うが、その間にも涙はとめどなくあふれてくる。
「なんでないてるの? もしかして、すず、いらなかった?」
幼い顔が不安そうに眉を下げる。エルはブンブンと首を横に振った。
「そんなことない! ……あのね、嬉しかったの、あたし、」
ともすれば嗚咽になって消えてしまいそうな言葉を、必死でたぐりよせて音にする。
「だれかに、ありがとう、って、言われたの、あたし、初めてだったから」
うつむく頭に、温度が触れた。ゼンの手だ。
撫でているのか叩いているのかわからない不器用な手つきで、ぽんぽんと。
慰めるように。労わるように。
そのあたたかさにまた、涙があふれた。
「本当に。本当に、嬉しかったの…………」
エルが泣き止むまでずっと、ゼンはエルの頭を撫でてくれた。
麻由良もミオもずっとそばにいてくれた。
「落ち着いたか?」
嗚咽の止まったエルの顔をのぞき込み、ゼンが尋ねる。
エルが頷き返すと、「そうか」と言って頭から手をのけた。
それをすこし残念に思ったことは、ゼンには内緒だ。
エルは「ミオ」と呼びかけると、しゃがみ込んでミオと目線を合わせた。
「鈴と、それから。ありがとうって言ってくれて、ありがとう」
にっこりと微笑んでそう言うと、ミオは太陽のような笑顔を浮かべて、「どういたしまして!」と言った。