ラスト・ジョーカー
「ありがとう」と言って、ミオから双眼鏡を受け取り、また幌馬車の上に跳び上がった。
下からミオが「すごいすごい!」とはしゃぐ声がした。
立ち上がって双眼鏡を目に当て、先ほど黒い点が見えた辺りをじっと見つめる。
見えたのは――見覚えのある透明な結界のドームと、その内部に建つ無数の建物。
それは遠目には〈ユウナギ〉とよく似た――。
「街が、ある……?」
エルの呟きを耳ざとく聞きとったゼンとアレンが、そろって幌馬車の上のエルを仰ぎ見た。
「エルちゃんさん、街が見えてきたの?」
アレンの問いかけに、エルはこくりと頷いた。
「うん……うん、〈ハナブサ〉が見えてきたよ!」
エルの言葉に、隊商の一同が沸き立った。
「本当か、エル」麻由良が言った。
「はい! この距離なら、あと一時間もすれば着きます」
「よし、では皆、止まれ! 検問に近づく前に、エルとゼンを隠す。男は馬車から二人が入れそうな箱を探して、中身を小分けにして他の荷に移せ」
麻由良の指示に従って、男たちが一斉に動きだす。
エルのことを恐れる彼らだが、隊商長の言葉には文句一つ言わずに従うのだ。麻由良の人望のなせる技だろう。