ラスト・ジョーカー
箱の外で、隊商の者たちが話す声と幌馬車に積んだ荷を移動させる音が聞こえる。
二人の入った箱の上や周りに他の荷を積んで、検問が箱を調べる気が失せるように仕向けているのだ。
やがてその物音も止んで静かになり、馬車がまた動き出す気配がした。
となりにいるゼンは、眠っているように動かない。
なにも見えない真っ暗闇のなか、馬車の進む音と二人の呼吸の音だけが聞こえる。
「……退屈だね」
黙ったままじっと座って一時間以上も待つのはさすがに気が遠くなる。
今ならまだ声を出しても大丈夫だろうと判断して、なんでもいいから会話をしたかったエルはそんな当たり前のことを呟いた。
「……そうだな」
「ゼン、寒くない?」
「いや、べつに」
「そっか。お腹、すいてない?」
「昼飯ならさっき食った」
「うん、だよね……」
当然ながら、ゼン相手に会話が続くはずもなく。
箱の中は再び静寂に包まれた。
(……静か)
遠くに、麻由良がなにか指示を出しているような声が聞こえる。
それでも、箱の中は世界が隔絶されたように静かで、音はしているのになにも聞こえないような、エルはそんな不思議な感覚に襲われた。