ラスト・ジョーカー
(……暗い)
カチ、と。自分の歯の根が鳴る音を、エルは聞いた。
(いやだ。狭い。暗い……怖い)
どうしてそんなものを怖がっているのか、エルにはわからない。
狭いのは少しの辛抱。
暗闇なんて、今までだって夜を迎えた数だけ経験した。
怖いことなんてなにもないのに。
必死で自分にそう言い聞かせるけど、一度恐怖心を自覚してしまえばもうだめだった。
どうして、と、エルは自分に問いかける。
どうして恐れているの。なにを恐れているの。
しかし、考えようとするとまるでそれを拒むように頭が痛んだ。
(怖い……!)
カチカチと歯を鳴らすエルに、――ふいに、「おい」と声がかかった。
「寒いのか」
無愛想な、ゼンの声だ。エルは首を横に振って、それから暗闇の中にいるのだからゼンには見えていないのだと思い出して「寒く、ない」と答えた。
「でも、震えてる」
「大丈夫。寒くない。大丈夫だから」
エルは首をぶんぶん振って言った。
すると、闇の中でゼンが身じろぎした。身体ごとエルのほうを向いたのが、気配でわかる。
「じゃあ、怖いのか」