ラスト・ジョーカー
ゼンの言葉に、エルは黙り込んだ。
「どうなんだ」
「…………こわ、い。すこしだけ」
言葉尻に付け加えた小さな嘘に、きっとゼンは気づいている。
「なにがだ。暗闇か? 狭いところが怖いのか?」
「わからないけど、たぶん……狭くて、暗いところ」
そう言って、エルはやっと思い出す。
――思い出すのは、それほど昔でもない、檻の記憶。
エルがそう言うと、ゼンは黙り込んだ。
しばらくの沈黙を経て。
「……目、閉じろ」
暗闇に、無愛想な声が響いた。
「どうして?」
「いいから」
わけもわからないまま目を閉じると、肩になにかが触れた。ゼンの手だ。
肩に当たったそれは、闇の中を手探りで首に触れ、そして両の手のひらで包むようにエルの頬に触れた。
(ちょっ、ちょっとまって、なにこれどういうこと……!?)
平静を装いながらも内心慌てるエルの頬を優しく包んで、ゼンが言う。
「暗闇のなかにいるのと、目ぇ閉じてるの、あんま変わらないだろ」
「……え?」