ラスト・ジョーカー
「暗いのが怖いなら、目を閉じてみればいい。目を開けたら明るくて広い場所にいるんだと思い込めばいい」
ああ、そういうことだったの。と、エルは納得した。
暗闇にいるのが怖いなら、あえて目を閉じて自分の作り出した暗闇に閉じこもる。
たしかに、恐怖心がすこしだけ薄れた気がした。
「それから、……」
言いかけて、しかしゼンは口ごもった。
その続きがエルには、なんとなくだが、わかるような気がする。
「うん。一人じゃない、……だよね?」
言って、エルは頬に触れたゼンの手の上に自分の手を重ねた。
(ゼンがあたしの頬に触れたのは、誰かが触れていれば一人じゃないと思えるから、なんだよね?)
すごくわかりにくいけど、――それがまぎれもない「優しさ」だと、わかる。
ゼンの手は冷たいけれど、その奥にはたしかに暖かさがあった。
「……ありがとう、ゼン」
囁くようにエルが言うと、ゼンはむず痒そうに身じろぎをした。
恐怖心はとっくにおさまっていた。だけど。
もうすこしこのままでいたいから、「もう大丈夫」と言わないでおこう。
そう、エルは思った。