ラスト・ジョーカー
小一時間ほど窓の外の景色をずっと見つめていたエルだが、その目に、ふいに妙なものを捉えた。
(あれはなにかしら)
エルは窓に額をつけて、食いいるように「それ」を見つめた。
通り過ぎていくビル群。
その隙間から、青空が見える。
その手前だ。
空気が歪んでいる、ように見えた。
白い稲妻のような筋が空を走り、遠くの山が時折、蜃気楼のようにゆらゆら揺れて見える。
透明な壁のようなそれが、ずっと空高くまで続いて、頭上の空全体を覆っていた。
どうやらドーム状の壁が、エリアに覆い被さっているようだ。それがエリアの一部なのか、それともエリア全体なのかはわからないが。
あれはなにかと尋ねたくてエルはうずうずしたが、車がエリアの最も外側にある歓楽街を抜け、オフィス街に入る頃になると、
どんなに建物の隙間に目を凝らしても、「壁」は見えなくなってしまった。
そしてその頃になると、エルの興味は別のものに移っていた。
車の向かう先に、巨大な塔があったのだ。
白いだけでなんの装飾もない、無骨な塔だった。
塔というよりも、柱に近いかもしれない。
ただ高さだけは異様なまでに高かった。
白く細い柱は、明らかに物理法則を無視して、まっすぐ空に伸びている。
その上端に、うっすらと雲がかかっていた。
車はまっすぐそちらへ向かって走っている。
あれがウォルターのいう〈塔〉なのかもしれない。
そう、エルが思ったとき。