ラスト・ジョーカー
「本当ね。あたし、ゼンがあんなに強いって知らなかった」
エルが言うと、アレンが横から「エルちゃんさんほどじゃないけどねー」とニヤニヤ笑いながら言った。
「ここは寒い。中に入ろうか」
という麻由良の言葉を合図に、五人ともそろって食堂に入っていく。
結構な量のご飯を食べていたはずのゼンは、まだ食べ足りないのか、席についてもうなくなりつつある料理を片端から片付け始めた。
エルとアレンは邪魔にならないように食堂の隅に座って、隊商の者たちの宴を眺めていた。
「ゼンの旦那、よく食べるねえ」
ふいに、アレンが言った。
「ね。見たところ、育ち盛りの年頃だものね。これまでは旅の生活で贅沢ができないから、がまんしていたのかも」
「ねえ、エルちゃんさん、鈴貸してくれる?」
一瞬、唐突すぎてなにを言われたのかわからずに、エルはきょとんとした顔でアレンを見返した。
「すず?」
「ミオちゃんにもらったやつ。ポケットに入ってるでしょ」
「入ってるけど……なにに使うの?」
「いいから、ちょっと貸して」
あの、気の抜けたような笑顔で言われて、エルはきょとんとしながらも鈴を差し出した。