ラスト・ジョーカー
「や……やだ……」
エルの小さな声に重ねて、後方で麻由良が息を飲む音が聞こえた。
それに続いて、男の高笑いが。
目から零れ落ちる水滴をそのままに、エルは男を振り返った。
と同時に、男が仰向けに倒れる。エルに突き飛ばされたのだ。
すぐに起き上がろうとする男の首に脚を軽く乗せて、エルは「動けば首を折る」と脅すと、手錠をかけられた両手を挙げた。
「これの鍵を出しなさい」
低く命じる声に、男は悔しげに顔をしかめながらも従った。
男がポケットから出した鍵を受け取り、エルは麻由良たちのほうを振り返った。
「ガラン、さん。こちらへ来てください」
呼びかけるエルに、ガランは戸惑いながらもエルに近づいた。
エルが黙って鍵を差し出すと、ガランは意図を理解して手錠の鍵を開けた。
エルは開いた手錠を今度は倒れた男の手にかけると、遥か下方の森へ躊躇なく鍵を投げ捨てた。
「麻由良さん、ガランさん、この男を〈トランプ〉へ引き渡すのを任せてもいいですか」