ラスト・ジョーカー
飄々とうそぶくウォルターに、男はもともと赤い顔を怒りでさらに赤くして怒鳴った。
「しらばっくれんじゃねえ! さっきの商人の女の仲間に異形がいることは聞いただろ。
その異形、俺を蹴り飛ばしたんだよ! 捕まえて死罪にしなきゃなんねえだろ!」
暗い地下の廊下に、男の声はひどく耳ざわりに響く。
ウォルターは顔をしかめて「うるさいなあ」と文句を言った。
「そんなに大声上げなくても聞こえてるよー」
「だったらさっさと異形を捕まえに行けよ! そもそもおまえ、あの商人の女が言ってたゼンってガキは探さなくていいのかよ」
男を〈トランプ〉に引き渡した麻由良は、すぐに塔から落ちたゼンの捜索を願い出た。
ウォルターはそれを引き受け、「塔周辺の森は熊が出没することがあり、危険なので少年の捜索は〈トランプ〉に任せて待っていてください」と言って麻由良を帰らせたが、それからもう一時間以上経つ。
それなのに、ウォルターは他の〈トランプ〉局員にゼン捜索を要請することもせず、まず昼ごはんを食べ、ちんたらと男を地下へ連行していく。
いっこうにゼン捜索に動き出そうとしないウォルターが、男にはまったく理解できなかった。
「ほんとうるさいなあ。ゼン少年は後で探すし、異形だって捕まえるよ。でもあんたを連れて行くのが先」