ラスト・ジョーカー
慌てて立ち上がる男を無視して、ウォルターは黙って扉を閉めた。
男は扉に追いすがったが、扉の向こうで足音が離れていくのが聞こえる。
呼んでも無駄だとわかっていても、男は扉を叩いて喚いた。
「おい! 出せよ、おい!」
呼ぶ声に答える者はない。
それでも呼び続ける男は、自分の叫び声の中にふと、異質な声を聞いた気がした。
なにか――獣がうなるような、声。背後からだ。
おそるおそる振り返った男が見たのは、闇の中に無数に浮かんだ、赤く光る獣の目だった。
「ひっ」
情けない声を上げて床にへたり込んだ男のもとへ、闇の中から軽い足音が近づいてくる。
一匹、二匹と。
いくぶんか闇に慣れた男の目は、すぐ目の前にいる獣が大きなあぎとを開いたのを見た。
同時に、首に激痛が走った。
むせかえるような自分の血の匂いと、獣の生臭い息の匂いが混ざり合った闇の中で、男の意識はゆっくりと薄れていった。