ラスト・ジョーカー
きっと、次に会ったとき。
〈トランプ〉のジャックとしてのアレンで、次にエルとゼンに会うとき。
二人は自分を嫌うだろう。嫌って、憤って、軽蔑するだろう。
もう自分に、あのあたたかい笑顔を見せてはくれないだろう。
(痛いのは、どちらも一緒)
恩人であるスメラギと、友人であるエルとゼン。どちらを裏切っても、痛いことに変わりはない。
ならば。
「……ごめんね。エルちゃんさん、ゼンの旦那」
アレンは立ち止まって、小さく呟いた。そばに立つウォルターは、聞こえないふりをしてくれている。
それに心の内で感謝しながら、アレンは胸ポケットから〈トランプ〉の身分証を取り出した。
感情でどちらも選べないのならば、アレンにはもう、仕事を優先するしかない。
――エルとゼンを、捕らえにいくしかない。
暗闇のなか、目の前にある壁に取り付けられたセンサーの赤い光が、チカチカと点滅する。
それに身分証をかざすと、唐突に目の前が明るくなった。
アレンの身分証を認証して、ドアが開いたのだ。
涙の出そうなほど眩しい光の中へ、アレンは一歩足を踏み出した。
――エルとゼンを裏切る覚悟は、もう、できていた。