ラスト・ジョーカー
森の木々が緩衝材になって怪我で済んだのではないか。
落ちている途中でとっさにPKを使って助かったのではないか、と。
でも、途中で虚しくなってやめた。
いくらなんでもこの高さから落ちれば、きっと、もう。
(ゼンが落ちたのは、このあたりのはず)
森のせいで見晴らしが悪く、見渡してもゼンらしき人は見えない。
しかし、エルはまるでゼンがどこにいるのかがはっきりとわかるかのように、迷いのない足取りで森へ分け入った。
(だって、強い匂いがする。――むせかえるような、血の匂い)
ここまで来ればもう、覚悟を決めるしかない。
ゼンはもう、生きてはいない。
血のにじむほどくちびるを噛んで、エルはただ進む。
一歩踏み込むほどに強くなる血の匂いに、たしかにゼンの匂いも混じっているのを感じる。
ああ、と、ため息のような声が漏れた。
どこまでも続くように思われた緑に、違う色が、赤が、混ざったことに。
少しずつ、でも確実に、胸を締め付けていく絶望に。沈んでいくような低い声。