ラスト・ジョーカー

*第四章 きみが呼ぶ名前 9*



「おれの母さんは、不老不死の研究者だったんだ」



 日の差さない暗い森に、ゼンの低い声が響いた。



 不老不死。



 死なず、老いず。いかなる傷、病気にも耐え、永久に姿かたちの変わらないこと。



 四百年前から人々はそれを求め、研究を重ねてきた。


そのために異形が作り出され、――エルが、作り出された。



「ゼンの、お母さんが……」



「優秀な研究者だったらしく、不老不死にかなり近づいたらしいが、志半ばに若くして死んだ……ということになっている」



「……ってことは、本当はそうじゃないの?」



 本当はまだ死んでいないのだろうか、とエルは思った。


ゼンがあまりにも淡々と話すものだから。――でも、違った。



「死んだのは本当だ。〈裁きの十日間〉のときに」



「え、それって百年前の話じゃ……」



「本当は、不老不死の秘術を作り出していたんだ」



「……え?」



「……このことは、おれとおまえと、もう一人を除いては誰も知らない」



「ちょっ、ちょっと待って!」



 言われたことの理解が追いつかず、エルは慌ててゼンの言葉を止めた。


百年前に死んだゼンの母が、不老不死を作り出していた?


ということは、ゼンは少なくとも百年前には生まれているわけで。


それなのに、ゼンの見た目は十七、八くらいで。それは、つまり……。



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