ラスト・ジョーカー
「ゼンが……、不老不死だって言うの……?」
震えた声で問うエルに、ゼンは答えない。
その沈黙が肯定を意味しているとはっきりわかって、エルは愕然とした。
「母さんは不老不死を完成させていたけど、それを世の中に公表するべきかどうか迷っていた。
けどそうしているうちに災害が起きて、そのときに死にかけたおれに、母さんは結局不老不死の術をほどこした」
なんと言えばいいのかわからず黙っているエルに、ゼンは自嘲じみた笑みを浮かべた。
「おれ、実は百十七歳なんだ。信じられるか?」
「ひゃ、ひゃくじゅうなな……」
信じられるかどうかもない。だって現にゼンは塔の展望台から落ちて無傷だった。
そういえば、砂漠モウセンゴケに吹き飛ばされて無傷だったこともあった。
あのときゼンは、本当は怪我をしていなかったのではなく、負った怪我を一瞬で治してみせたのだ。
「信じるよ。ゼンの言うことだもの」
エルはそう言って、隣に座るゼンの手をそっと握った。
なんだか、そうしないとゼンがどこかへ行ってしまうような気がしたのだ。
ゼンは一瞬驚いたようにビクリと身を震わせ、戸惑いを浮かべた顔でエルを見た。
それからぎこちなく手を握り返すと、ゼンは話を続けた。
「母さんはおれに術をほどこした後、自分の手記に遺書を書き、その翌日に死んだ。術にPKを使いすぎたんだな」