ラスト・ジョーカー
「あ、覚えててくれたんだ? 今日はねー、あんたを取り戻しに来たんだ。そこのアレンと一緒に」
言われた言葉に、数秒、息をするのを忘れた。
今度こそ、エルは振り返った。
首の皮を、ナイフが浅く切り裂く。
その傷が治るのと、エルが息をのむのとはほぼ同時だった。
背後にいたのは、青い髪の青年。
「アレン……」
名前を呟く声に応えて、アレンが困ったように笑った。
「ごめんね、実はおれ、〈トランプ〉のジャックだったりするんだよね」
「ねー」と、ウォルターが合いの手を入れる。
「ま、おとなしくついて来てよ。おれもエルちゃんさんに乱暴なことしたくはないから」
冷めた口調で言うアレンの言葉に、エルはようやく気がついた。
このまま〈トランプ〉に連れて行かれたら、ゼンが反逆罪で罰せられてしまう。
――逃げなければ。
そう思うと同時に、エルはアレンの手に噛みついた。
驚きと痛みで、アレンの腕が緩む。その隙にエルは駆け出した。
まっすぐゼンの元へ走り、目にも留まらぬ速さでウォルターの背後を取る。
そのまま蹴りとばそうと跳び上がったエルの目は、ゼンの腕がゆっくりと持ち上がって宙に手をかざすのを見た。
――エルに、向かって。
ゼンの手のひらから青白い光が走る。
その一瞬でできあがった結界に、エルは弾き飛ばされた。