ラスト・ジョーカー
エルは慌てて、少年の行く手にまわり込んだ。
今ここで一人にされては困る。
たとえ屋内だろうと、野良の異形が一人でいては、いつ誰に狩られてもおかしくない。
それに、思えば少年とエルが事故現場から逃走するとき、多くの通行人の目があった。
噂を聞いた異形商が、もうここを嗅ぎつけて表で見張っていても、おかしくない。
「野良の異形をいきなり攫ってきて、こんなところに放置するつもりなの?
ねえ説明してよ。
あたしを攫ってきた理由とか、あなたが何者なのかとか、これからどこに行くのかとか、あたしをどうする気なのかとか!」
まくし立てるエルの声に、少年は煩そうに眉をひそめる。
怒りたいのはこっちよ、と、エルは心の中で毒づいた。
「ゆっくり説明している時間はない」
少年が言った。
「なら手早く説明すればいいじゃない?
今ここで最低限の説明をして、詳しいことは後でっていうふうにしても、あたしは構わないけど?
説明するまで、ここ、通さないからね」
エルはキッと少年を睨みつけ、通すまいとするように両腕を広げた。
しばらくその状態のまま、二人は睨み合ったが、やがて、少年が折れた。
深いため息をついて視線をそらす。