ラスト・ジョーカー

10

*第四章 きみが呼ぶ名前 10*



 〈トランプ〉ハート本部最上階の局長室にノックの音が響いたのは、もう陽が沈みかけた頃のことだ。



 部下が提出した報告書に目を通していたスメラギは手を止めて、「芽利加か。入れ」と言った。扉を開けて芽利加が顔を出す。



「局長、どうしてわたしだとわかったんですか?」



 心底驚いたという顔で尋ねる芽利加に、スメラギは「足音でわかるさ」と苦笑した。



「それで、なにか用か」



「あ、はい!」芽利加は花のような笑顔を浮かべて言った。



「先ほどアレンから連絡がありました。例の異形と少年を捕らえた、と。もうあと十分程度でこちらに到着するはずです」



 待ちわびていた知らせに、スメラギは軽く目を見開いた。

――ようやくだ。ようやく、秘術を手に入れることができる。長年の望みが叶う。



「では、異形はカルラの研究室へ。少年は地下牢に入れておけ」



  そう指示して、スメラギは椅子の背もたれにかけていた上着を羽織った。


すぐにでもカルラの研究室へ行って、異形に話さなければならないことがある。



 必要な書類をかき集め、デスクの引き出しから身分証を取り出して胸ポケットに入れる。


そうして準備を整えるスメラギは、ふと、指示をもらったはずの芽利加がいっこうに局長室を出ようとしないことに気がついた。



「どうした、芽利加」



< 181 / 260 >

この作品をシェア

pagetop