ラスト・ジョーカー
手を止めて尋ねるスメラギに、芽利加は薄く笑った。
「局長、わたし、前から不思議に思っていたんです」
「なにを?」
「〈トランプ〉は文明復興機関。我々が追い求めるのは〈裁きの十日間〉前の最新技術――特に異形作り、ひいては不老不死。
なのに局長は、『不老不死を解く鍵』である異形を追い求める。はじめは、不老不死に近づく術がそれしかないからだと思っていました。けれどわたし、知ってしまったんです」
花のような笑顔を仮面のように貼りつけたまま、芽利加は言う。
「……なにを」
「異形を連れ去った少年――ゼンと言いましたか。彼が不老不死だということを、局長は知っていますよね? Aから聞いて」
時が止まったような心地が、スメラギにはした。
そのことは、芽利加には話していないはずだ。
それをスメラギが聞いたのは、先日の「お茶会」でのことだ。
他言したことは一度もない。――と、いうことは。
「芽利加、まさか『お茶会』を盗聴していたのか……!」
「ええ。申し訳ありませんが」
そう言った芽利加は、すこしも申し訳なさそうではない。
薄い笑いはいつの間にか消え、厳しい表情を浮かべている。
「局長は、なぜゼンを手に入れようとしないのですか。なぜ異形だけを追い求めるのですか。……不老不死を解く必要でもあるのですか」