ラスト・ジョーカー
細い指に握られたのは――真っ黒な一丁の拳銃。
現れたものにスメラギは驚きで目を見張る。
それまで書類と芽利加の体に挟まれて、スメラギには見えなかったのだ。
「芽利加、なにを……」
「あなたがエルとゼンをつまらないことに使う前に、わたしが有効活用してさしあげます」
それだけ言うと、芽利加はためらいもせずに引き金を引いた。
パン、と、銃声が響く。――あまりに軽く、あまりに重い乾いた音が。
膝から力が抜けて、スメラギはくずおれた。
痛む腹をかばう手に、生暖かい液体が触れる。
かすむ目の先に、芽利加のワインレッドのハイヒールが見える。
「大丈夫、あなたはまだ使えますから、ちゃんと手当てをして差し上げます。死ねとまでは言いませんが、少しの間、大人しくしていてくださいな?」
振ってきた声に応える気力もなく、スメラギは床に倒れこみ、目をゆっくりと閉じていく。
目を瞑るその瞬間、視界になにか白いものが映った。
局長室の本棚の上に飾った、真っ白い花だ。
カンパニュラ・コクレアリーフォリア・ホワイトベービー。
スメラギの母と同じ名を持つ、純白の風鈴草。
(すみません、母さん)
彼女の願いを叶えられなくなることを、スメラギは消えかかった意識の中で深く、深く謝った。
しかしそれと同時に、彼女を死なせなくてすむことに、ひどく安心していた。