ラスト・ジョーカー
「ゼン、今どこにいるんだろう……」
「旦那なら無事だよ。心配いらない」
突然響いた声に、エルは驚いて跳び上がった。
ドアを開けて入ってきたのはアレンだった。
手にお椀やお皿の乗った盆を持っている。食事を運びに来たのだ。
「エルちゃんさん、フラフラしない? 頭痛くない? どこか調子悪くない? 大丈夫?」
ベッドの隣にある背の低い棚の上に盆を置きながら、アレンは矢継ぎ早に訊く。
「大丈夫。どうして?」
「エルちゃんさん、まる三日も寝てたから」
さらっと明かされた衝撃の事実に、エルは目をむいた。
「みっか!?」
「うん。きっと疲れてたんだよ」
アレンはなんでもないことのようににこやかに言うが、疲れていただけで三日も眠るわけがない。
「エルちゃんさん、ごはん食べられる?」
ぽかんとしたまま固まったエルに、アレンが言う。
そのときようやく、エルは気づいた。――アレンはいつも通りの能天気な笑顔で、いつも通りに話す。
だけど、彼は一度もエルの目を見ない。
気にしてるのだ。……エルとゼンを騙したことを。
(あたしは気にしてないんだけとなぁ)