ラスト・ジョーカー




 それがアレンの仕事だったから仕方がなかったことも、アレンが本当はそんなことをしたくなかったことも、わかっているから。



 だけど言うべき言葉が見つからずに、エルはただ「うん、食べる」とだけ答えて、アレンから箸を受け取ってサラダを食べ始めた。




 盆を下げるのも仕事の内なのだろう、アレンは食事をとるエルとすこし距離をとって、じっと立っている。



 しばらくはそのまま食べていたエルだが、沈黙のせいでどうにも食べづらくなって、「ねえ」とアレンに話しかけた。



「なに、エルちゃんさん?」



「すごく今さらだけど、アレンはどうしてそんな……ちゃん付けなのかさん付けなのかよくわからない呼び方をするの?」



 尋ねたエルに、アレンはすこし考え込んで答えた。



「んーとね、結局裏切ることになるのがわかってたから、呼び捨てもちゃん付けも気安すぎるかなって。

でも、こっちのが年上なのにさん付けもどうなのかなって……結局ちゃんさん両方つけるのがしっくり来て」



 なんともアレンらしいふわふわした答えに、エルは思わず「なにそれ」と吹き出した。



 ひとしきり笑って再び昼食を食べ始めようとしたエルだが、ふいにその手を止めた。


アレンが、泣きそうなような困ったような、不思議な表情をしていたのだ。




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