ラスト・ジョーカー
訝しげな顔で見ているエルに気づいて、アレンはうつむいた。
その薄いくちびるが小さく動く。
「笑って、くれるんだね……」
「……え?」
聞き返すエルに、アレンは顔を上げて笑いかけた。
――彼らしい、柔らかい笑顔で。この部屋に来て初めてエルの目を見て。
「ずっと迷っていたことがあるんだけど、エルちゃんさんのおかげでどうするか決まった。ありがとう」
それだけ言うと、顔に疑問符を浮かべたままのエルに構わず、アレンは立ち上がった。
そして「食べ終わったら、お盆その辺に置いておいて。後で持っていくから」と言い残して部屋を出て行った。
「え、あ、アレン!?」
慌てて呼びとめるが、もう遅い。
扉を開け放したまま足音が遠ざかっていく。
なんだったんだろう、と不思議に思う暇もなく、
「あのバカ、ドアも閉めないでどこ行くのよ……」
という声とともに、戸口に人影が現れた。
その人物には見覚えがあった。
胸まであるふわふわした桃色の髪。
同色の大きな瞳は優しげに垂れて、対して眉は怒ったようにつり上がっている。