ラスト・ジョーカー
「おれは、……」
少年はまだ迷うように、口をつぐみ、視線をさまよわせた。
だが、またすぐに話し出した。
「おれは、ゼン。何者かと問われても、旅の者だとしか、言いようがないが。
これからどうするかだが、明日の朝、ここを発つ。
おまえにはついてきてもらう。
行き先は、いくつか候補はあるが、まだ決めていない。
今からおれは、旅に入り用なものを揃えに街へ行く。
おまえは目立つから連れていけないが、逃げようとしても無駄だ。
この家の周りに結界を張った。
おまえは外に出られないし、他のやつは中に入れない」
ゼンはそこで言葉を探すように視線をさまよわせた。
「おまえを攫ってきたのは、……果たしたい目的があるからだ。
おまえのことをいろいろと調べて、おまえがその、鍵になるかもしれないと思った。だから攫った。
おれはおまえをどうもしない。ただ、おれの旅について来るだけでいい。
……これで満足か」
事務的に、単調に、それでいてどこか苦しげに、ゼンは言うと、エルを押しのけて歩き出す。
その背中に、エルは問いかける。
これ以上は、訊かないほうがいいかもしれないと、思いながら。
「果たしたい目的って、なに?」
ゼンは玄関の扉に手をかけた。
そして振り返り、かけて、やめた。
一瞬だけ見えた口元が、笑っているような気が、エルにはした。
「……殺さなきゃいけないやつが、いるんだ」