ラスト・ジョーカー
この日もやがて地下牢に交代の足音が響きはじめて、ウォルターはチッと舌打ちをした。
「今日もだめだったか」とぼやいて、ウォルターは盆を下げる。
そのまま去っていくウォルターと入れ替わりに鉄格子の前に立ったのはアレンだった。
「さっきね、エルちゃんさんに会ってきたよ」
ウォルターの足音がしなくなったのを確認して、アレンは小声で言った。
「そうか。あいつは元気か」
「うん、元気そうに笑ってた。でも、ゼンの旦那のこと心配してたよ」
「……そうか」
それきり黙り込んでしまったゼンに、アレンが「ねえ、訊いていいかな」と遠慮がちに言った。
「なんだよ」
「どうしておれとウォルターから逃げなかったの。旦那のPKとエルちゃんさんの身体能力があれば、逃げようと思えば逃げられたはずだろ」
責めるような口調で問うアレンに、ゼンはため息をついた。
「べつに、これでよかったんだよ。おれと旅してるより、あいつはスメラギんとこにいたほうが安全だし快適だ。
もともとあいつを買い取ったのはスメラギだし、ここにいればあいつを化け物扱いするやつもいな……」
「馬鹿だな」
珍しく厳しい声で、アレンがゼンの言葉を遮った。