ラスト・ジョーカー
「なら――まさかおまえも」
「いや、それはちがう」
言いかけたゼンの言葉をスメラギが遮った。
だが、エルにだってゼンが何と言いかけたのかわかる。
――まさかおまえも不老不死なのか、と言おうとしたのだ。
「学者として名を馳せ自分の研究室も持っていた綾崎マツリと違って、紫蘭は研究室もなく、
いつまでも学会で評価されないため研究費用もほとんどなく、自宅で趣味のように異形を研究していたんだ。
だがある日――不老不死の秘薬を作り出してしまった。
紫蘭はそれを誰かで試したいと思っていたが、研究費用が国から下りない紫蘭が実験台にするための人間を買う金などなかった」
ゴクリ、と、エルは唾を飲み込んだ。その先の展開が読めたからだ。
「彼は妻を――スメラギのお母さんを実験台にした。そうよね?」
「ああ」スメラギは頷いた。
「当時紫蘭には身重の妻がいた。やつは自分の研究成果を試したい欲に負けて、腹に自分の子を宿した妻に……カンパニュラ・ローゼフィリアに秘薬を試した」
低い声が口にした名前を聞いて、エルもゼンも目を大きく見張った。
――その名を、二人は知っている。あの、雪の妖精のような少女を。
だが――カンパニュラはどう見ても十歳前後の少女だ。
たとえ彼女が不老不死であっても、十歳で成長を止めた体が子供を身ごもり出産することなどできるはずもない。