ラスト・ジョーカー
二人の訝しげな視線に構わず、スメラギはあっさりと「まぁ、そういうことだな」と頷く。
「ベニクラゲという生き物を知っているか」
スメラギの唐突な質問に、ゼンは眉をひそめながら「本で写真を見たことならある」と答えると、おまえはどうだ、とでも言いたげにエルを見た。
「見たことあるよ。小さくて、体の真ん中が赤いクラゲよね?」
エルが言った。「どこで見たんだよ、そんなもの。海にでも潜らなきゃ見れないだろ」と、胡散臭げにつぶやいたのはゼンだ。
そう言われて、エル自身もどこで見たのだろうと訝ったがどうにも思い出せない。
きっと記憶を失う前だったのだろうと納得して、「それで、ベニクラゲがどうかしたの?」とスメラギに続きを促した。
「普通のクラゲは成熟すると衰弱して死ぬが、ベニクラゲは成長段階のひとつであるポリプという状態に戻ることができる
。成熟すると若返り、また成熟すると若返り……を繰り返す。見た目にはわからないが、母はそのベニクラゲと融合された異形だ」
「じゃあまさか、カンパニュラはそのベニクラゲみたいに……」
「そう」スメラギがゼンに頷いた。
「あの人の体はこの百年、赤子から実験当時の二十九歳までを繰り返してきた。若返りがはじまる年齢はバラバラだったがな。
一度は五歳のときに若返りがはじまったこともあったらしい」