ラスト・ジョーカー



 あまりにも途方もない話に、エルは気が遠くなるような感覚を覚えた。


これならまだ、ゼンのような「ただの不老不死」のほうが現実味があるほどだ。



「えっと、ズメラギはその……百年の間ずっとカンパニュラのお腹の中にいたの?」



「そうらしい。秘術は母の胎内の赤子も母の体の成長の一部と認識したらしく、母の体は妊娠も処女膜決裂までも、たとえ相手の男性がいなくても忠実に再現した。


だが秘術は完璧じゃなかった。十八年前になって秘術の循環に狂いが生じ、ついに母は私を産んだ。出産直後から若返りが始まったから……あの人は今、十一歳か」



「……で、おまえはカンパニュラを『繰り返し』から解放してやりたいわけか」



 ゼンが言う。なるほど、とエルは納得した。


スメラギは不完全な不死にとらわれたカンパニュラを解放するためにエルを追っていた。



「そうだ」と、スメラギは頷いた。


「だが、今は芽利加を阻止するのが先だ。不老不死を再び実現させるわけにはいかない。だから、どんな形であれ不老不死に関わるおまえたち二人を芽利加の手元に置いておいてはならない。ただ……」



「ただ?」



 エルが促すと、スメラギはエルの目を見た。


彼の赤い目が、痛みをこらえるようにかすかに歪む。



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