ラスト・ジョーカー
『いや?』
ローレライは静かに問い返した。
『檻の中は、いや?』
『そりゃあ、いやに決まってるじゃない。ずっと檻の中に座っているんじゃ、肩が凝ってしょうがないわ。
すこしでいいから運動がしたいし、できれば、外の世界を見てみたい』
エルはため息混じりに答えた。
エルとローレライの入っている檻は、エルが膝立ちになれば頭がつくほど低く、
大の字になって寝れば両手両足が檻からすこしはみ出るほど狭かった。
自分がもう少し小さければと、エルは常々思っていた。
『ローレライだって、本当は水の中で自由に泳ぎたいでしょう?』
同意を求めるエルに、しかしローレライは緩やかに首を振った。
『わたしは、このままでいいと思っているわ』
エルは訝しげに、ローレライの顔を見た。
そしてはっと息を飲んだ。
ローレライは微笑みを浮かべていた。
それはなんとも言えない、不思議な微笑みだった。
笑っているのに、そこに表情などないような。
どこまでも澄んだ、透明な水のような。
『だってね、エル』
ローレライが言った。
その水のような声に、エルはうっとりと聞き入った。
『わたしたち異形は、初めから、自由なんてないんだもの。
この命はわたしが持っているけど、わたしのものじゃないもの』
ローレライがそう言った、あの時は、今とは違って夏だった。