ラスト・ジョーカー
ズキリ、と。ひときわ大きな頭痛がエルを襲った。
それを読み上げてしまったことを咎めるように。
脂汗を浮かべて頭を抱え込んだエルに、ゼンが慌てたように「おい、大丈夫か!?」と呼びかけた。
エルを支えようと伸ばされた手をつかんで、エルはほとんど叫ぶようにして言った。
「お願い、読んで!」
「でも、」
「いいから、お願い。あたし、自分のことちゃんと知りたいの」
心配そうにエルの顔を覗き込んだゼンをまっすぐに見返して、エルは強く言う。
それでもゼンは迷っていたが、エルが重ねて「あたしは大丈夫だから」と言うと、諦めたようにため息をついた。
「時間をも操ることのできた名瀬優子は、以来二度とそんなことが起きないように、自分の身体の時間を止めて自らを結界に封印した」
「それで?」
「……その後、封印された身体は綾崎家が数百年に渡り代々守ってきたが、〈裁きの十日間〉により綾崎家当主マツリが死亡、次期当主……おれが行方不明になったため〈トランプ〉に回収された。
〈トランプ〉に回収されて約九十年後、名瀬優子は自然覚醒。
封印が解けて急速に始まった老衰を食い止めるため、〈トランプ〉研究員カルラ・フォードは彼女の身体を複数の動物と融合させる。
名瀬優子は融合時のショックにより記憶の大部分を失う」