ラスト・ジョーカー




「ああ、なんだ。そんなことだったの」エルは苦笑した。「気にしないよ。ゼンだもん」



 エルがそう言うと、ゼンはすこし安心したような顔をする。


それに微笑みを返して、エルはそっと、日記の一ページ目をめくった。



――2014年1月26日。



 そんな日付がまず目に入った。その文字の癖が、ひどく懐かしい。



――年が明けた。今は神戸にいる。いろんなところに行ったけど、やっぱり生まれ育った神戸がいちばん落ち着く。神戸に来て一ヶ月が経つけど、組織はまだわたしの行方をつかめていないみたい。今回はうまく逃げられた。



 日記の内容は、日ごとにそれほど変化はなかった。


組織の動き、自分の動き、追手から隠れる生活のなかで起きた些細な出来事。


表情もなく、エルはただページをめくる。


そしてあるページで、初めて「わたし」と「組織」以外の人間が登場した。




――2014年2月5日。真澄に会いに行った。真澄は高校受験で忙しいみたいで、大変そうだけど少しうらやましかった。わたしは真澄と同じ十五歳なのに、義務教育であるはずの中学にも行けない。本音を言えば、わたしも真澄と一緒に中学生になりたかった。




 十五歳。その文字をエルはまじまじと見つめる。


以前、ゼンは何と言っていただろうか。


「十五歳」とは、名瀬優子が「社会から消えた」歳ではなかったか。



< 213 / 260 >

この作品をシェア

pagetop