ラスト・ジョーカー
ごくり、と息を呑んで、エルはページをめくる。
隣のゼンは何も言わず、何もせず、ただ前を見ている。
エルが日記を読み終えるのをじっと待つように。
日記は淡々と毎日を綴る。
定期的に食料をまとめ買いして、それ以外は組織に見つからないために家に閉じこもる日々を。
そして、それは唐突に訪れた。
――2014年2月23日。真澄が死んだ。
それまでは一ページに三日分ほどの日記が書かれていたのが、そのページだけはその一言でだけで終わっていた。
エルは呆然とその文字列を眺める。
(真澄。――あたしの友達、だった人)
覚えていない人の死。なのに、ひどく胸が痛む。
――きっとそれは、名瀬優子であった自分にとって、その人の存在がそれだけ大きかったから。
次のページをめくる。そこにはもう、日付がなかった。
――真澄が死んだのは、わたしのせいだ。わたしの力のせいだ。こんなものがあってはいけない。きっとわたしは、もう死んだほうがいい。
どういう経緯で「真澄」が死んだのか、そこには書かれていなかった。
たしかアレンの手紙には、「PKの暴発により」と書いてあったが。
エルは右のページに視線を移した。
――どうしても、死ぬのが怖い。何度も死のうとするけど、怖くてできない。真澄を死なせておいて、自分は死ねないなんて、最低だ。