ラスト・ジョーカー



 そんな自責や悔恨が何ページも続いた後。



――真澄のお兄さんと話して、わたしは自分を封印することにした。この力でわたしの時間を止めて眠る。わたしの体はお兄さんが預かっていてくれるみたい。だから日記は、きっとこれが最後になる。



 その最後の日記は、残り少ないページにできる限り小さく詰めて、少し震えた文字で書かれていた。



――この日記もお兄さんに預ける。眠っている間に死ぬか、長い時間が経ってまた目覚めるのか、それはわたしにもわからない。そもそも自分を封印するなんて途方もない話、成功するかどうかもわからないけど。次に目が覚めることがあれば、この力がなくなっていたら、いい。



 日記はそこで終わっていた。あとに残ったのは一行の空白だけだ。



 小さく息を吐いて、エルはノートを閉じた。


それまで黙って隣に座っていたゼンが「終わったのか?」と声をかける。



「うん……」



「……なにか、思い出したか?」



「ううん、なにも」



 エルが首を振ると、ゼンは「そうか」と呟くように言って立ち上がった。

そして服についた砂をパタパタと払うと、座ったままのエルに手を差し伸べた。



「休憩はこれくらいにして、先を急ごう」



 うん、と頷いて、エルはその手を取る。



(いつも通りだ……)



 握った手の温度が。いつもと同じ、大きくてあたたかい手だ。



(ゼンは、いつも通りだ。あたしが化け物だとか、……ジョーカーだとか、そんなの関係なく)



 それが嬉しくて、だからエルは笑って立ち上がった。



< 215 / 260 >

この作品をシェア

pagetop