ラスト・ジョーカー
「渡るって、どうやって?」
重ねて問うと、ゼンはおもむろに右手をエルに差し出す。
「……?」
意味がわからず首を傾げるエルに、ゼンは怒ったような顔をする。
「つかまってないと落ちるぞ」
それでようやく納得した。
PKで海の上空を飛んで渡るつもりなのだ。
少し笑って、エルはゼンの手を取る。
すると握った手が青白く輝いて、次の瞬間、二人はふわりと空に舞い上がっていた。
エルの赤く長い髪が風に舞ってなびく。
足が宙を掻く感覚に、すこしだけ身がすくんだ。
思わず、エルはゼンの手を握る力を強くする。
ゼンはちらりとエルを見て、
「怖いか」
と訊いた。
「うん……ちょっと」
「普段あれだけ跳びまわってるのに? ハエジゴクぶっとばすときとか」
「でもあれは、自分の力で跳んでるじゃない。すぐに着地するし。浮くのとは、ぜんぜん違う」
というか、べつにぶっとばしてなんかいないし。
そう呟いた声は、風の音に掻き消されてゼンには聞こえていないようだった。
「そういえば、風の音がすごいね」
「そうか?」
「うん。砂漠ではぜんぜん風がなかったでしょ? でも、海の上ではすごく風が強いんだね」
ゼンはちょっと耳をすますような仕草をして、それからおもむろに言った。
「この音は、本当は風の音なんかじゃないという俗説があるんだ」