ラスト・ジョーカー
「俗説?」
「そう。だいたいこの風の音、変じゃないか? 音はこれだけうるさいのに、実際に吹いている風はそれほど強くない」
エルはハッと息を呑んだ。言われてみればそうだ。
先ほどから耳を塞ぎたくなるほど風の音がうるさいのに、髪や服はそよ風になびくようにさわさわと揺れるだけで、それほど乱れていない。
「じゃあ……この音はなに?」エルがそう尋ねると、ゼンは「なにに聞こえる?」と訊き返す。
すこし考えて、エルは言った。
「地響きか、……人の、声」
「エルでもそう聞こえるんだな」
「あたしでも、って?」
ゼンは「いや、」と言って小さく笑った。
「人間の耳ってのはな、案外役に立たないものだ。それこそ風の音を人の声だと思い込んだり、一度そう思い込むともう人の声にしか聞こえなくなったりする。
だが、おまえは耳がいいだろう。おまえなら、もしかしたらこの音が風の音にしか聴こえないんじゃないかと思ったんだが、おまえでもこれが人の声や地響きに聴こえるなら……案外、俗説は的を射ているのかもな」
ふうん、と呟いて、エルは首を傾げる。
「それで、その俗説ってのはどういう?」
返ったきた答えは、思いがけないものだった。
「〈裁きの十日間〉はただの災害でもなく、ましてや神の裁きでもなく、人が起こしたものだという説」
「え……?」