ラスト・ジョーカー
頭に響くローレライの声が遠くなって、エルの心は今に戻っていった。
エルはゆっくりと眼を開ける。
(あの、不思議な表情は、諦め、だったのかもしれない)
今になってそう思う。
エルはローレライの鱗を、丁寧にポケットにしまった。
『いや?』
また、声が聞こえる。
『人殺しの手伝いをさせられるのは、いや?』
もう記憶の中でしか聞くことのできない、ローレライの声。
「この、命は」
薄い唇が自然と動いて、言葉を呟く。
ローレライの命は、ローレライが持っていたけれど、その命を自然のまま終えることはできなかった。
その命は支配人のものだった。
支配人がローレライに適した環境を用意しなかったために、
その命は縮み、縮んだ命をそのまま自然に終えることなく、支配人によって絶たれた。
この命を、持っているのは、自分だけれど。
(あたしの命は、誰のもの?)
つい昨日までは、支配人のものだった。
支配人がスメラギにエルの所有権を売って、エルの命はスメラギのものになった。
(今は?)
所有権はスメラギが持っている。
けれど、エルはゼンの元にいる。
ならば、この命は誰のもの?
どちらでもいいと、エルは思った。
いずれにせよ、エル自身のものではないのだから。