ラスト・ジョーカー
ゼンが睨みつけるが、相楽は「物騒ですねえ」と言いながらにこにこ笑うだけで、まったく怯まない。
適当にあしらわれるゼンというのもなかなか珍しい、と、エルは場違いな感動をしてしまった。
エリア〈ユウナギ〉を出たときと同じ要領でゼンが結界に穴を開けて、三人は〈ヨザクラ〉に入る。
〈トランプ〉の頂点に立つはずの相楽なのに、なぜ正門から入らないのだろう、とエルが不思議に思っていると、相楽は心を読んだかのように「僕は戸籍がないもので。すみませんねえ」と頭を下げた。
エルは慌てて首を振る。
「いえっ、そんな、謝ってもらうようなことでは……」
そう言うと、相楽は安心したように笑う。
〈ヨザクラ〉は〈ユウナギ〉と同じように、結界のすぐ内側には森が広がっていた。
二人は相楽について森を進む。そしていくらも行かないうちに一軒の家が見えた。
木でできた、小さな家だ。だが決して粗末ではなく、きちんと手入れされているのが見てわかる。
三角の屋根がメルヘンチックで、絵本に出てくる森の魔女の家のようだ。
それが初老の男にあまりに似合わなくて、エルは思わず家と相楽を見比べてしまった。
それを相楽もわかっているのだろうか、扉を開けて「さあ、どうぞ」と二人を通した彼は苦笑していた。