ラスト・ジョーカー
部屋の中には机と椅子、小さな棚と一人分のベッド。
他にはなにもない。生活感がまったく感じられなかった。
相楽はエルとゼンに寝台に腰掛けるように勧めて、自分は棚の中を漁ると、一冊の手帳のようなものを持ってきて椅子に腰掛けた。
「僕はね、『不死の記憶』を持っているんです」
何の前置きもなく、相楽が話し出した。
「マツリが創り出したのは、不老不死だけじゃなかったんですよ」
いきなりぶっ飛んだ話をされて目を白黒させるエルに対して、ゼンは何の反応もしない。
おそらく、ゼンはもう知っているのだろう。
「えっと……その、不死の記憶? って何なんですか?」
「そのままですよ。記憶が死なないんです。一代目の庄戸相楽は僕の父ですが、父の代に起きた出来事はすべて覚えています。
父から記憶を受け継ぎましたから。ついでに名前も受け継ぎましたがね」
そう言われて、エルはハッとした。ゼンに聞いた話を思い出したのだ。
文明復興機関〈トランプ〉の提唱者の名前は庄戸相楽だということ。
(聞いたことある名前だと思ったら……)
〈トランプ〉を提唱した庄戸相楽は百年前の人物だ。
すると、目の前の庄戸相楽の父だったのだろう。
父の名前と記憶を受け継いで、目の前の男は「庄戸相楽」になったのだ。