ラスト・ジョーカー
そして、「記憶を受け継がせる」などというとんでもないものを創り出したのが……。
「それも、ゼンのお母さんが……?」
「はい」
相楽は頷いた。
「マツリはとても素晴らしい科学者であり強力なサイキックでした。自慢の友人でした。若くに亡くなってしまったのが、……残念です」
部屋の中に沈黙が降りた。静かな空気に三人の息遣いが聞こえる。
なんとなく居心地が悪くて、エルは身じろぎをした。
「さて、」相楽が二人に笑いかける。
「ここからは、ゼンくんも知らない話だ」
そう言って、相楽は手に持った手帳をゼンに手渡した。
「これは?」
短く問うゼンに、相楽も短く答える。
「綾崎マツリの手記です」
「母さんの、手記……?」
「はい。いずれ時が来ればゼンくんに見せるよう、マツリに言われていましてね。名瀬さんにも見せるかどうかは、ゼンくん自身が決めなさい」
そう言われて、エルとゼンは思わず顔を見合わせた。
「エル、おまえも読め」
一瞬の逡巡もなく、ゼンが言う。
「え、でも……」
「いいから」
強く言われて、とくに断る理由もないのでエルは頷いた。
それでもやはり気が引けて、ためらいがちにゼンの開いたページを覗き込む。