ラスト・ジョーカー



 それは手記というより、相楽に宛てた――あるいはゼンに宛てた手紙のようだった。


〈裁きの十日間〉が起きてからマツリが死ぬまでの約二日間の経緯を記した、長い長い手紙。



――これを読んでいるゼンは、今は何歳なんだろうね。どんな生活をして、誰と一緒にいるだろう。きっと、余計なことをしてくれたと私を恨んでいるだろうね。でも、私が与えた長すぎる人生の中で、あなたが輝かしいなにか、愛おしいなにかと出会えていたら、私にとってこれほど幸せなことはない。



 手記はそう始まっていた。

ゼンについて「母」の立場から書かれた文面はたったそれだけ。


あとは、ゼンや相楽に伝えるべき情報を簡潔にまとめて綴られているだけだ。



 綾崎家が代々、名瀬優子の体を家の地下に隠してきたこと。


……綾崎家が「綾崎真澄」の兄の子孫であること。



 さらにはゼンを不老不死にしたマツリが、それを解除する秘術をエルの中に眠らせたこと。



 エルが「祈りをこめて歌う」という行為それ自体が解術の発動のスイッチであるということ。



 解術とは「不老不死を解くこと」ではなく、厳密には「ある人の『人間でない部分』を取り除くこと」だということ。



 それはつまり、解術はゼン以外の人間にも適用でき、たとえば異形を人間に戻すことも可能だということ。



< 225 / 260 >

この作品をシェア

pagetop