ラスト・ジョーカー




 ただし、解術が影響を及ぼせる範囲は、一人だけだということ。



「不老不死の秘術を施す際にPKを使いすぎてしまったマツリは、僕に手記を託した後に息を引き取りました」



 二人が手記を読み終えたのを見てとったのか、相楽がふいに言った。



「結局、不老不死は誰かの犠牲なしには成り立たなかった。カンパニュラに術を施した紫蘭も、マツリと同じようにPKを限界まで使って亡くなったと聞いています」



「……そうか」



 呟いたゼンは、顔に複雑な表情を浮かべていた。

怒っているような、悲しんでいるような、それでいてどこか吹っ切れたような。そんな顔。



「名瀬さん」



 ゼンについてはもう何も言うことはないと判断したのか、相楽はエルの方を向くと呼びかけた。



「え、……はい」



 名瀬、という呼び方がなんだかすごく居心地が悪く、エルは微妙な顔で応える。



「今読んだ通り、解除秘術は『人でなくなった者を人に戻す』というものです。解除秘術をゼンくんではなくあなた自身に使えば、あなたは人間に戻れる」



「……はい」



「それを踏まえた上で、……あなたは、どうしますか」



 ついに、来たか。エルは唇を引き結んで、ゼンを見る。



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