ラスト・ジョーカー
ゼンがPKでウォルターを弾き飛ばしたのだ、と、エルは即座に悟った。
そして悟ると同時に、その顔がサッと青ざめた。
PKは気力と体力を消耗する。
不死のゼンと言えども体力は無尽蔵ではない。
疲労が過ぎれば動けなくなる。
そして、ゼンはもう限界だ。
相楽の家の周りにも結界を張って、さらに自分の周りにも張っているのだ。
その上でエルにも注意を払えば――。
案の定、ゼンの周りの四角い結界が砕けた。
ゼンを囲んだ丸い結界が、ぐい、と芽利加の方へ引き寄せられる。
「ゼン……!」
とっさに駆け出したエルだが、その行く先にウォルターが回り込む。
繰り出された蹴りをかろうじてかわしたエルだが、すぐさま二撃目が遅いかかる。
――避けきれない。
そのとき、唐突に――本当に唐突に、目の前になにかが現れた。
横から滑り込んだのではない、空から舞い降りたのでも、まして地面から生えてきたのでも、もちろんない。
それは――その人影は、エルとウォルターの間に、瞬き一つした瞬間に現れたのだ。
呆然としながら、エルは人影に呼びかける。
「ア、レン……?」
ウォルターの蹴りを受け止めた青い髪の人影は、振り向いてエルに笑いかけた。
「久しぶり、エルちゃんさん」