ラスト・ジョーカー



「今はウォルターの結界で芽利加さんを閉じ込めておけるけど、このままじゃあいずれウォルターの体力が切れて結界が崩れる。

そうなったら、芽利加さんがゼンの旦那を拉致るのを、だれも止められなくなるよ」



 沈黙がその場に降りた。だれもが緊張した面持ちで、結界に囲まれたゼンを見る。


優雅に笑っているのは芽利加だけだ。



「エル!」



 ふいに、ゼンが叫んだ。

まっすぐに芽利加を睨んだまま、エルの名を呼んだ。



「歌え! 今、ここで……!」



 エルは息を呑んだ。


目を大きく見開いて、ゼンを見つめる。


――言われた意味がわからないほど、エルも愚かではなかった。



(祈りを込めて歌うという行為それ自体が、解除秘術を発動するスイッチ……だったよね)



 相楽からなにか訊いたのだろう。

アレンやスメラギ、カンパニュラも愕然としたような顔をして、ゼンを見ていた。


ゼンの言葉の意味がわからないのは、芽利加とウォルターだけだ。



「…………わかっ、た」


 深く、深くうつむいて、エルは答える。


「ちょっと、待ってよエルちゃんさん!」と、アレンがエルの肩をつかんだ。



「秘術を使えば、ゼンの旦那は――」


「わかってる」


 エルは顔を上げて、アレンを見た。――困ったような笑みを浮かべて。




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