ラスト・ジョーカー
「わかってるよ。秘術を使えばゼンがどうなるか。でも、ゼンは最初から、このためにあたしと旅をしていたの。
あたしはゼンと一緒にいられて幸せだったから、……恩返しを、しなくちゃ」
ゼンを、解放してあげなくちゃ。
薄く笑って、エルは歩き出した。
アレンの腕をすり抜け、一歩、二歩と進む。
そうして足を止めると、大きく息を吸った。
「歌のつばさのうえにのり」
高く澄んだ声が空に昇る。
薄い唇が歌い慣れた歌を紡ぐ。
エルが唯一知っている歌を。
「いっしょに行こう恋びとよ」
祈りを込めて、歌う。
どうかあなたが、心安らかに眠れますように。
永年の孤独から解き放たれて、先に旅立った親しい者たちに会いに行けますように。
「ガンジス河の草原に――」
「……エル!」
――歌は呼ぶ声に遮られた。
エルに「歌え」と言った張本人の声に。
その切迫詰まったような声音に、エルは思わず顔を上げた。――と、同時に。
夜の空が真っ白になった。
強い光が瞬いたのだと悟ったのは、その一瞬後。
それからはなにもかもがスローモーションになったように、エルには見えた。
白く輝いた空から、光の亀裂が降りてくる。
まっすぐ自分に向かってくる稲妻を、エルはただ見ていた。