ラスト・ジョーカー
視界の端で芽利加が笑うのが見えた。
瞬間、その稲妻は芽利加がPKで作り出したものだと、エルは悟った。
芽利加はおそらくエルとアレンの会話から、エルがなにをしようとしているのかに勘付いて、エルを消そうとしているのだろう。
PKって雷も起こせるんだ、すごいなあ。
そんなのんきなことを考えて、エルは目を閉じた。
もう眩しくて見ていられなかった。
焦燥も、悲哀も絶望も、死の恐怖もなにも湧いてこなかった。
(だって、ゼンがあたしの名前を呼んだんだもの)
大地の割れるような、すさまじい音が耳を貫く。
強い突風が吹いて、エルの軽い体が小さく浮いた。
あ、と思うと同時に、誰かに腕を掴まれて体が引きとめられる。
そのままエルは誰かの大きな体の中に抱きすくめられた。
「大丈夫?」
耳元でアレンの声が尋ねた。
じゃあ引き留めてくれたのはアレンなのか、とエルは思いながら頷いた。
そしてアレンの腕の中から顔を上げて周囲をうかがう。
エルを貫こうとした稲妻は消えていた。
稲妻の代わりにエルの頭上にあったのは結界だった。
いや、もはや結界といえる形をしていなかった。
それはエル一人をぎりぎり守れる程度の面積しかない、透明な板のようなものになってエルの頭上に浮いていた。
稲妻の衝撃を受けたからか、ひび割れてぼろぼろと崩れていく。