ラスト・ジョーカー



 よく目をこらすと、倒れたゼンの体のまわりに、黒いもやのようなものが漂っていた。


ゼンを取り巻くそれは、見る間に増え、濃くなっていく。



「……なに、あれ」



 緊張した面持ちでつぶやくエルに、スメラギは「わからない」と答えた。


その間にももやは急速に広がり、ゼンの姿を飲み込んでいく。



 そうしてもやはついにエリア〈ヨザクラ〉を覆う結界に達した。



「あ……」と、喘ぐような声を上げたのはエルだ。


その声につられて、一同が〈境界〉を見遣る。


そして全員が、その光景に息を呑んだ。



「結界が、溶けていく……」


 ウォルターがつぶやいた。



 黒いもやが触れたところから、〈境界〉が溶けるように消えていく様が、一同の目に映っていた。



「なるほどな」と、スメラギが言った。


「疑問に思っていたんだ。母と同じく不死であるはずのゼンは、どう見ても常人と同程度のPKしか使えない様子だった。ならばPKを限界まで使えばどうなるのか、と」



 その答えは、目の前の光景を見れば明白だった。



「他の者からPKを補給しているんだ。おそらくは、本人も無意識のうちに」



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