ラスト・ジョーカー
そしてそのもやは、――信じたくはないが、倒れている芽利加やエルたちの方にも向かってきていた。
「すぐに逃げるぞ。あれは結界を張って防いでも無駄だ!」
スメラギの言葉に頷いて、ウォルターが芽利加の元へ走りだす。
アレンもカンパニュラを抱え上げた。――だが。
「待って! あのままのゼンを置いていくの!?」
抗議したのは、言うまでもなくエルだ。
「他にどうするんだ。私もこんな事態に遭遇したのは初めてで、あれがどの程度他者のPKを吸い取れば収まるものか、まったく見当がつかない。
このままここにいては、PKを吸い取られて死ぬかもしれない」
「それは……」
「ジョーカーよ、おまえも不死ではないんだぞ。対して、ゼンは不死だ。心配ない」
「……そういう問題じゃないわ!」
突然声を荒げたエルに、スメラギは驚いたように目を見張った。
困惑したようなスメラギの赤い目をキッと睨みつけて、エルは言う。
「不死だろうがなんだろうが、ゼンはあたしの大切なひとよ。大切なひとが意識を失って倒れているのに、置いていくなんてできない」
それに、と、エルは続ける。
「ここであたしたちが逃げて、そうしたら〈ヨザクラ〉のひとたちはどうなるの?
あのもやがどの程度PKを吸い取れば収まるのか見当がつかないのなら、〈ヨザクラ〉のひとたちが危ないんじゃないの?」