ラスト・ジョーカー
エルはもう一度大きく息を吸うと、再び歌いだそうと――した。だけど。
「ダメだわ」
アレンの言葉が耳にこびりついて離れない。――歌えない。
――エルちゃんさんの本当の願いは何なんだよ……っ!
「あたしの、本当の願いは」
こんなことじゃない。
ゼンの死など望んでいない。
彼の死を、心の底から祈れるわけがない。
そんなことのために歌えるわけがない。
「あたしは、もっとゼンと一緒にいたい……っ!」
ポロポロと、両目からしずくが落ちた。
両足が力を失って、エルは砂の上に座りこむ。
「ゼンと一緒に、もっと世界を見たい。辛いときはゼンにそばにいてほしい。ゼンに、隣でもっと笑ってほしい。
一人に、しないでほしい……っ」
ポン、と、肩に暖かいものが触れた。
見なくてもわかる。アレンの手だ。
その温度に触れて、心が落ち着きを取り戻していく。
そうすると、急に視界が明るくなったような気がした。
実際には黒いもやがもう目前に迫ってエルたちを飲み込もうとしていたが、不思議とエルはそれを恐ろしいとは思わなかった。